去る10月10日に、名大で「日本の焼畑」研究会を開催しました。参加していた
だいた方々にはお礼申し上げます。また、数人の方々から「行きたいけど、どう
しても用事があり行けません」という事前連絡を頂いたので、簡単な報告をした
いと思います。
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トップバッターは、野本寛一先生(近畿大学名誉教授)でした。野本先生のご
発表は、とにかく「圧巻」という感じです。1937年生まれなので、今年で72歳に
なるのですが、現在でも焼畑を営んでいた山村に通い、聞き取り調査を続けてい
る現役の研究者です。その情報量は「生き字引」という形容詞がぴったりで、焼
畑に関することなら何でも答えられるという感じでした。野本先生の存在自体に
圧倒されたというのが正直な感想でした。その野本先生が、自省の念を込めて、
「これまで計量的なデータを採ってこなかったのが悔やまれる」と言っていたの
が印象的でした。要するに「何をどのぐらいの面積で栽培して、その量は生活す
る上で、どのぐらい余剰を産み出していたのか、それとも足りなかったのか、そ
ういうデータをこれまで聞き取りしてきたすべての村々で正確に聞き取っていな
かった」ということを悔やんでいました。野本先生がこれまで聞き取りをされた
方々の多くはすでにに鬼籍に属されており、昭和の時代に残っていた貴重な焼畑
のデータはもう得られないとのことです。この話は、私にとって、かなり考えさ
せられました。私はラオスの焼畑を調査していますが、私の聞き取りなど、野本
先生が取得したデータ量の1%にも満たないと思います。私は後生に何が残せる
のであろうか? フィールドワークを論文を書くためのデータ収集と考えてきた
のではなかろうか? 色々と思うところがあり、今後どのようなスタイルで
フィールドワークすべきか考えなければならないと思いました。
次の発表は坂本寧男先生(京都大学名誉教授)でした。「自分は雑穀の研究者
だから焼畑の話はできない」と前置きをして発表を始めました。ところが、その
発表は、まさしく日本で広く見られた焼畑雑穀栽培の発表で、すばらしいの一言
でした。また、今回見せていただいた写真のほとんどは初めて発表するものだと
いうことで、その点でも貴重でした。阪本先生は、何と79歳になられます。私が
野本先生に事務的な連絡のために電話した際、「世界に通用するような研究成果
を出されているのに、あれほど謙虚な態度の方は阪本先生以外にいません」と
おっしゃっていました。野本先生の言う通り、すごく丁寧な発表で、発表後の質
疑応答でも、決して他の方の理論を引用せず、かつ想像で答えることもなく、自
分の知らないことに関しては、低姿勢に「申し訳ありませんが、そのことは分か
りません」と答えていました。たぶん、阪本先生の知識を持ってすれば、すべて
の質問に答えられたはずです。しかし、自分で見聞きしていないことに関しては
答えられないというスタンスを貫いていました。しかも「自分の無知で...」と
か「恥ずかしながら、そのデータは持っていません」という言い方です。真の科
学者とは、阪本先生のような方のことを指すのではないかと思いました。
余談ですが、懇親会の席で、野本先生が阪本先生に「全集を出されたらいかが
ですか?」と話したところ、「そんなことする必要はありません。私はすでに、
落合雪野という良い弟子を残しました。それだけで十分です。」と答えたそうで
す。なんと謙虚な...。落合さんは、私と一緒にラオスで研究されている民族植
物学者です(『ラオス農山村研究』の共編者です)。私も指導教官にそう言って
もらえるように頑張ります(無理ですが....)。
さて、最後は歴史地理学者の米家泰作先生(京都大学大学院文学研究科)でし
た。これが、私(および研究会メンバー)にとって、目から鱗のような刺激的な
発表でした。たぶん、米家先生は、今回話した内容を論文でまとめる予定だと思
うので、ここではその内容に関して詳しくは書きません。簡単に言うと、日本で
はいつから焼畑は遅れた農耕と見なされるようになったのか、焼畑民は平地の民
とは異なる(原始的な)生活を送る民とみなされるようになったのか、という点
に関して膨大な量の歴史資料を提示して説明していただきました。そして、近世
以降、徐々に焼畑が生産性の低い農法であると認知され、また焼畑民がの施政者
から「他者化」されるようになるプロセスを提示されました。
私たちの研究会は、東南アジアの焼畑の消滅をどのように捉えれば良いのかを
考える研究会なので、米家先生の発表は非常に参考になりました。また、個人的
に古文書に対する興味も生まれました。
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以上、研究会の報告をさせていただきました。
自分で企画運営して言うのもおかしいですが、今回はすごく面白かったです。また、皆様にこのような研究会をご案内できるように頑張ります。同時に自分もこの研究会
の講演者の先生たちのような発表ができるようになりたいと思います。
長文失礼しました。